国是とはいえ,実際には機能していないのではないかという疑いは,古くから存在している.例えば,米軍に関して,1974年10月6日の「米艦は核武装のまま日本寄港」との元海軍少将ラロックの証言が公表されている**1) .疑惑を払拭するためにも法制度は是非とも必要だ,と日本非核自治体協議会などが立法化を求めている*2) が,勿論この団体だけが求めているわけではない.
インターネット上ではっきりした形でこの回答,つまり,「国是である,しかし法制度は必要がない」,が見られるのは,http://kaleido.smn.co.jp/JPN/news/0107n01j.html.市民団体「今こそ非核法を!運動」が1996年に各政党にこの問題についてのアンケートを送付し回答を得ている.古いことは古いが,国是が変わったという話もきかないし,法制度化されているという話もきかないので,まだ有効かと思われる.
自民党の解答は,「非核三原則は法律としてよりも日本国民の総意、国是として世界に広める方がより重みがあると考えます」.
国是であることは,極めて根本的な国の是認事項であるといった意味なのではないかと思われるが,それであるが故に法制度化する必要はないというのは,何を意味しているのだろうか.雑に言ってこの回答は因果関係を構成していない.これが是とされるとしたら,その解釈は恐らくただ一つ.国民が例外なくそれを知り,かつ十分に機能していて今更法制度化の手間を取る必要はない.他にいくらでも緊急の課題はいくらでもある.つまり,手間の問題である.しかしそんなことなのだろうか?
興味深いのは,今は無き「さきがけ」. 「非核三原則を維持していくことには賛成です。ただし、法制化した場合の法的拘束力などについて検討していく必要があります。 」 この「法的拘束力」についての懸念を払拭してから解党してほしかった.
*1) 例えば, 防衛庁のホームページ.「その他の基本政策」として書かれている.
http://www.jda.go.jp/policy/f_work/frame22.htm
*2) 長崎市のホームページ用語解説から.
http://wwwus1.nagasaki-noc.or.jp/~nacity/na-bomb/
「日本非核自治体協議会」とは何だろうか?
**1) 1974年9月という説もある.
・・・たとえて言えば,私は喫煙反対者であるので,誰も煙草は吸わないというようなものなのじゃないのだろうか.吸わないでくれる人もいるだろうが,吸う人を止めてはいない.
そうした疑惑のなかで生まれたのが,非核神戸方式という,自治体が独自に,核兵器を持ち込ませないというやり方.
日本は,非核三原則を堅持しています,と言い続けたところで具体的方策がなければ絵空事でしかないわけだから,この方式の採用は,国是の具現化として評価されるはずなのだ.また,仮に核搭載船入港拒否が世界中至るところで宣言されていれば,核軍備の現実的な配備がそれだけ困難になるわけなのだから,全面的核廃絶ではなくとも,まずは実戦配備を解除しようという今日的な具体案に繋がる可能性もある.つまり,もし本当に日本国が,核廃絶に熱心で,非核三原則を単なる自己保身の目的にだけ使うつもりがないのなら,この方式はもっと認められてもいいわけだ.
しかし...現実には, (以下,「らしい」と書くのは,今日現在私が該当しそうな文書をまだ読んでいないから)
●1・非核三原則の国是がありながら,米原潜が日本の港をうろうろしているらしい.
●2・そもそも,この国是は,日米安保条約の一方の当事者である米国については適用されぬとの密約が存在しているらしい(しかも,これが米国の公文書で確認されている由).
●3・さらには,98年6月には,カナダの軍艦が証明書なしで入港するという事件があり,また,97年から98年にかけては,非核神戸方式を採用しようとした高知県に対し外務省が待ったをかけるという事態も起きている.[98/10/16]
●1.日本への原潜寄港「初」は,1964年11月.ちなみに米軍B-52が沖縄からベトナムに出撃するのは1965年7月から.
●2.時の首相佐藤栄作と,ニクソン米大統領の間で1969年11月21日の日米首脳会談時に交わされた,沖縄の核についての極秘合意文書の要点は,以下の通り.
*****
1) 米政府は日本国政府と事前協議を行ったうえで核兵器を沖縄に再持ち込みすること,
沖縄を通過することの権利が認められることが肝要である
2) 沖縄に現存する核兵器の貯蔵地を重大な事態が生じた場合にはいつでも使用でき,活用できる状態に維持する必要がある.
(日本国総理大臣)
重大な緊急事態が生じた際に,事前協議が行われた場合には,遅滞なくそれらの要求に応じる.
例えば,
http://www.okinawatimes.co.jp/day/1996100717_2.html
(沖縄タイムス)
[98/10/29]
1999/01/11 朝日新聞 沖縄返還時の核密約関連文書を保管、米安全保障局が回答(SpadinaJ. 09)
1999/05/15 核搭載船の一時寄港、大平外相「了解」示す文書見つかる http://iij.asahi.com/0515/news/politics15003.html
1999/05/15核持ち込み:当時の大平正芳外相が米側に了解 米側文書http://www.mainichi.co.jp/news/search/772702/8aj95ba8aed-0-1.html
1999/05/17 政府が「日本が核持ち込み了解」の米側文書の確認を否定 http://iij.asahi.com/0517/news/politics17010.html
または,Spadina
Journal vol.27
71年11月 福田外相,マイヤー駐日大使
沖縄返還時に書簡を出してもいいが,日本が沖縄米軍基地の核の確認,査察をしないことが条件と述べる.これに対して福田外相は「very
good」
(1998年末開示秘密電報コピー,99年5月新聞紙上)
*当時「核抜き本土並返還」,核兵器の撤去と非核三原則の尊重を米側に求めるよう野党が主張していたことに対しての書簡を言っている.
72年5月 沖縄返還
72年6月 レアード国防長官
ライシャワー大使が63年4月に大平外相と話し合った際に,核搭載船が日本領海や港湾に入っても事前協議が適用されないことを大平外相も確認した.
(1998年末開示文書,99年5月新聞紙上)
74年 ラロック退役海軍少将
寄港する際に核兵器を降ろすことはしない」と証言(米議会公聴会)
81年 ライシャワー元駐日大使
「持ち込み」とは,核兵器の陸揚げ,貯蔵を意味し,艦船の寄港は持ち込みにはあたらないという日米間の口頭了解がある,
60年の安保改定時に藤山愛一郎外相とマッカーサー駐日米大使の間に,通過・寄港を認める口頭了解があった,
と発言.(毎日新聞とのインタビュー)
1999/03/04 石垣市長、非核証明条例を検討/3月議会中にも提案へ【琉球新報】
1999/03/01 非核港湾問題で知事答弁「国への証明書要請は合法」【高知新聞】
1999/03/02 「非核証明条例」案を正式に議員提案、函館市議会【朝日新聞】
1999/02/23 毎日新聞<日米防衛指針>高知県、外国艦船の非核化目指す条例改正案提出
1999/02/16 非核港湾条例化 自民県議団が反対
高知新聞
(この週の流れは→Spadina
J. 14)
1999/02/15 高知新聞 県の「非核港湾」化 2月議会に条例案提出
1999/02/13 高知新聞 県の非核港湾化
自民が阻止指示
1999/02/09 <防衛庁長官>日米防衛指針で自治体に履行を命じる可能性を示す
1999/01/01 非核神戸方式 外国軍艦寄港決定は権限外 高知県に外務省
2月、知事は導入提案
1998/01/08 高知新聞社説 国の非核政策の方が問われている
問題を整理すると,上記の通り,非核三原則(核兵器は持たず,作らず,持ち
込ませず)は日本国の「国是」である.にもかかわらず,当初から,米軍に対
しての密約がささやかれ,かつ,「国是」でありながら法制度を拒むという奇
妙な状況にあった.
こうしたなか,1975年以来,外国艦船に対して,「核は持ってない」という
証明書の提出を求めるという自治体の提案が実施されている.神戸市が実施し
ているものなので,これが非核神戸方式と言われている.これは,要するに,
国是が具体策レベルで確認されている状況である.実際,米軍艦船は「核搭載
を明らかにしない」という方針のため,神戸港の使用を断念している.
さて,この方式を他の港を抱える自治体も考えないことはない.例えば小樽,
苫小牧で同じような条例化が検討されているようだ.
その中で,高知県が県をあげて,非核港湾化を考えた.
その表明は,一昨年に県議会で採択されている.「高知県の港湾における非核
平和利用に関する決議」である.これが理念の表明である.
さてでは具体策という段になって,県は当初,県港湾施設管理条例の施行規則
で「核兵器を積載した船舶による港湾施設の使用を規制」した上で,外国艦船
に非核証明書の提出を求めるつもりであった.つまり,いわゆる非核神戸港方
式を採用する方針だった.
ところが,外務省が,これに文句をつけた.(1月1日朝日新聞記事参照)
曰く,外国軍艦の寄稿を認めるか否かは国の事務であるから,地方自治体の関
与すべきことではない.
一見尤も,と思う人もいるだろうが,ここには幾つかの問題がある.法律論的
な誤りを指摘する声もある.しかしそのうち最大のものは,
国という上位組織(と書くと法律家は自治体と国は対等だと言うのだろうが)
の方針を,地方団体という下位組織が,守ってはいけないという状況は果たし
て正常なのかということだろう.
具体的に言えば,非核三原則という国のルールがある.非核神戸方式はそのル
ール上にある.しかしそれが可とされない.では,国のルールが可ではないの
だ.
ルールが変更されたのであれば,それは宣言されなければならない.
にもかかわらずそれは放置されているのだ.
国是が,国民が等しく是としていることであるなら,外務省であっても,地方
自治体であっても,同じく是としなければならない.
ところで,高知県の行おうとしていることは,国是を具体的施策でサポートし
ようとしているように見える.
外務省はそれに抵抗している.この時,外務省はこの国是を是としているのか
しないのか.その解答こそが,この議論の出発点になるべきはずである.
しかし今のところ,一方でこれは国是ですと言い(防衛庁のページを参照),
他方で高知県の動きを制している.議論の道筋を誤っていると言える.議論の
土俵をあえて変えているといっても言い過ぎではないだろう.
(これによって,国の専任事項だと言われれば,そうだと納得する人が結局多
く,この枝葉末節にすぎぬ文言が報道されることによって,事実は大きく変質
させられ伝えられることが予想されるから.)
必要な議論を回避しているからこそ,「これは自治の問題などではなく,国の
外交権の問題だ」などと平気で言うことができる(自治大臣発言2月13日).
であれば,ここで必要なことは,自治大臣に,では非核三原則は今も国是なの
かと尋ねることである.
しかし報道に於いてその形跡はない.いつの間にか議論は,「自治と外交」と
いう問題になっている.
さて,しかし,高知県はとりあえず,では次の策ということで,高知県が外国
艦船に対して証明書を提出させるという部分を捨て,「外務省」に非核証明書
の提出を求めてもらおうじゃないかという方策に変えた.
外国艦船の寄港許可不許可が国の専任事項だと言うのなら,外務省にやっても
らおうというわけである.
ところが,この改正案も虚しく,高知県自民党連は,あっさりと,最初っから
へんだと思ってましたと言わぬばかりに,提案に反対を表明した(16日).
なんのためにこの議論があるのか.それは,非核三原則というのが国是だから
である.この国是は,人々に,疑いをもたれようともたれまいと,「今のとこ
ろ」,信ずべき,宣言すべき何事かとして与えられている.
一方で,それを一般には知らしめ,他方政府は別のことをしようとしているの
か.であればそれは,一朝事あれば,梯子をはずして,最初っからこうでした
からという腹づもりなのかと疑われても仕方がない.[99/02/16]
で,所長というのはそのぐらいで辞められるところなのでしょうからこれはこ
れ...
さて,核兵器廃絶というのが,市民会館の横で「非核都市宣言」をする以上に
現実的なものになるにはどうしたいいのか.なすべきことは実際膨大だ.どう
やったら核兵器廃絶というのが現実的な視野に入ってくるか,そのためのモノ
の考え方の方向付けやら,実に実に現実的な今ある兵器を解体することまで,
さらには核兵器の作り方が存在する以上,モノがなくなったからといって安心
できないじゃないか,もある.
そうした諸々のことが話し合われ,各国の代表者が少しづつ合意を重ねる..
.と,上記のような研究所の主な目的は,そういう場を作り,かつそこからの
提言によって人々をリードしてゆく(あるいは反撃されるかもしれないがそれ
も含めて)ことだと言えるだろう.多分.人脈頼りのお話合いだけではない.
しかし,それがなかなか人々の日常には降りてこない...それは提言がただ
の提言,より現実的なところにはあんまり触れない現実(核兵器の解体も現実
だ)だけを追うからだろうと思える.で,現実はどこにある?
それは例えば,高知で起こっているようなことにある.これが,もし達成され
,かつ広範囲に渡って支持されるとしたら,どうなるか.それを考えてみるこ
とは現実的な方向への一方であり,それを実施しようとするなら,さらに一歩
現実に踏み出している.
橋本大二郎高知県知事は,「理念だけを掲げるような条例案にはしない」とい
ったようなことを言っている.市民会館の横だけでは終わらないという意味だ
ろう.
というわけで,
▼1999/02/23 火曜日●高知
<日米防衛指針>高知県、外国艦船の非核化目指す条例改正案提出 (【毎日新聞】)
http://www.mainichi.co.jp/old-news/199902/23/0223e042-100.html
高知県は,23日,先週のどんちゃん騒ぎにもかかわらず,非核三原則の理念を
盛り込んだ県港湾施設管理条例の一部改正案を,同日開会の定例県議会に提案
した.[99/02/24]
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