■990424
世の中には知らない方がいいこともある.
毎日新聞が4月21日でNATO軍関係者が,米国が劣化ウランを使用しているこ
とを認めたという記事を流した.にもかかわらず,なんで劣化ウランが話題に
ならないのだろう?と思っていたのだが,日本の方の「自己規制」はまぁいい
として,アメリカはなんだ?と不思議に思っていた.どんな理由があるのだろ
うか? これだけとりあえずオンライン上に出回っているにもかかわらず..
.→劣化ウランinコソボ
日本の市民団体系の人は,この事情を,核に関する「秘密主義」と言うのであ
ったが,ほんとか?と,ちょっと気になった.それで,Znetというチョムスキ
ーで有名なところの主催者にメールを書いてみた.すると,彼は,劣化ウラン
って普通の公害物質とかと変わらないんじゃないかと思っている由のレスをく
れた.
へぇえええ,ほんとにそんなこと思ってんのぉ?と,それじゃ米軍もやりやす
いわけだよなぁとつくづくびっくり.アメリカって,この一事をもっても反戦
なんか語る資格はないし,実際語っているのは,自分たちの国がどうあるべき
かだけであって,自分たちの国がどう迷惑をかけたかなんてことではないのだ
なということにも気づかされる.自分たちの国が首尾一貫性をもった政策を貫
かぬことが気に要らないだけの話かもしれない.
そもそも,仮に公害物質と同じであっても,相応に毒であるものを人様の土壌
に撒く! どうしてそれでいいと思えるんだは依然として疑問である.
しかし,そうなったのもこうなったのも,核ってその場だけに限らず,ず〜っ
とたいへんなんだよ,でもあるし,そもそも兵器として語られる以上の物質で
はないのか,への懐疑をアメリカがアメリカ人を教育しなかったからでもある
し,ナニジンもクソもなく人類規模でというのなら,日本が頑固に,核はダメ
です,なぜならこれこれであるからを言い張れなかったことにも一因はある.
貫通力のある,性能のいい兵器を作るということは,殺傷が容易であると言っ
ていることに気づかない人が多すぎる.
核兵器の存在は,それを廃絶しようという試みが,できるだけ理想で語らずに
,できるだけ現実的に,例えば,物理的に取り去る,捨て去るという大仕事だ
けを問題にせず,実戦配備から外す,使用物質の流通を止める,あるいは使用
しないという条約をまず締結するといった,現実的な問題として語られている
にもかかわらず,どうしたわけだか,ますます大きな問題となっている.予想
されていたこととは言え,恐らく誰の予想よりも早く,急に,冷戦時代よりも
,核兵器の持つ「重み」は大きくなっている.
主な理由の一つは,核兵器が,ここまで来ると,初期投資の大きさは既に消え
,極めて投資効果のよいものになっているからだと思える.開発するのに手間
はかかったが,今となっては,そこそこ簡単にできるというじゃないか.そう
して,この兵器には,膨大な通常兵員の必要がない.兵器も大変だろうが,通
常兵力を維持するのは手間だ.それに比べれば,持っているだけで威嚇に足る
核兵器は便利このうえない.ロシアが,最後まで核兵器を手放すまいと言われ
ているのは,主にこの理由によるものであろう.
もう一つの理由は,威嚇に足る何者かとしての存在を逆手に取って,これを持
つことが過剰な危険として一般に理解されているということである.
持っているかもしれないという嫌疑だけで,一国の主権を無視して査察をして
いいという状況に,世界は既になっている.
持っているかもしれないという嫌疑でその程度の査察が行われるのなら,持っ
ている国にも同程度のことが行われないのでは筋が通らないはずなのだが,持
っていることが公に認められる場合には,どうやらそれで済むらしい.これは
,国家の信用度の問題だというのが,裏面の合意事項なのであろうが,一体誰
がそんなことを決めたのかは常に明らかではない.国家の信用度の問題とは,
アメリカ,イギリス,フランス,ロシア,中国は持っていても大丈夫,査察に
は及ばないが,それ以外なら,嫌疑だけでも空爆に値する程の脅威であるとい
うことである.お前らはならず者だから仕方がないと言ったも同然である.
湾岸戦争は,核兵器を使って何をできるかを証明したと言える,と言われてい
たのは遠い昔で,今や,核兵器は完全なダシになっている.
こうまで馬鹿げた世論,あるいは国際世論がまかり通った主要な原因の一つは
,言うまでもなく,NPTなどという差別構造を放置したまま核兵器を考えたこ
とである.
また,もう一つの問題は,実に原始的な問題を見過ごしたことではないか.そ
れは,武器を持つことと使うことは,別のことだということ.更には,誰も彼
もが核兵器をほしがっているわけではないということを,はっきりさせなかっ
たこと.
当該武器を持った上に使った国は,これまでのところ,とにかく一国しかない
.この国だけが,ここに歯止めがなかった.しかし,これを以てすべての保有
者には歯止めがないを言うことはできない.
また,拡散する,拡散する,核兵器が広がる,広がると言ったところで,実際
,世界中の大多数の国々は,そんなもの持ってはいない.また,持ってないう
え,確固たる「傘」のないところも多い.だから,誰もが欲しがる,誰もがこ
れを持って有利な立場に立とうなどというわけではないのだ.もし,誰だって
そうだろう,と言う人がいるのなら,それはまず,彼がそう思っているのだ.
このことを,ドイツの核軍縮問題の専門家が,「アメリカの病だ」と言い,「
私たちは,この病,みんなこの爆弾が欲しいのだ,をぶち壊さなければならな
い」と言明していた(『The Nation』, February special edition 1998)
.
去年これを読んだ時,私は,まったくその通りだと思ったが,この一年で共感
は更に強くなった.この一年,核兵器をネタに,一体何をやったのだ,アメリ
カ,である.
今にして,つらつら思うに,1994,95年の,スミソニアン博物館での原爆展
の中止は,この国が,この病に気づくことを放棄したという宣言だったのかも
しれない.