United Nations Special Commissionだから,文字通りには,国連特別委員会とでもいったもの.しかし,内容を考えて,大量破壊兵器廃棄の即時実地査察のための国連特別委員会といった書き方も多い.
この委員会は,安保理決議687(1991年4月3日採択)に基づいて設置されている.安保理決議687とは,イラクが,化学兵器,生物兵器,弾道ミサイル等の大量破壊兵器の廃棄を国際的監視の下で無条件に受け入れることを義務づけられ,そのための言質査察に合意するというもの.
またこの義務をイラクが受諾することは,湾岸戦争の停戦の条件にもなっていた.
しかし,イラクがこの査察を妨害,あるいは拒否.従って,これを非難する決議が安保理で幾つか採択されている.にもかかわらず,まだ妨害している.
1997年末から1998年にかけて,受け入れろ,受け入れないの攻防が激しくなり,1998年2月に,それなら,空爆も辞さない...と国連が言うはずはなく,アメリカがそう言い,いわゆる「危機」が起こった.
この間の事情については,2月ごろ,多くのサイトが立ち上げられていたが,表面がきれいに整理されているのは外務省のページ.今に至るまで基本的には同じ話なのでご参考までに(たいした内容ではない).
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/hosho/iraq/kei.html#UNSCOM
また,その時,アメリカが支えとした,「イラクが国際社会の安全保障を脅かす」という認識が,きれいにまとまっているのが,国連のホームページにある.イラクが持っているだろう代物と査察の結果が列記され,この査察がいかに重要なものであるかが書かれている.以下は,それの日本語版.米国日本大使館のサイト.
http://www.usia.gov/abtusia/posts/JA1/wwwt2459.txt
大量破壊兵器が国際社会の安全を侵害しているのなら,まず必要なことは,それを使わせないこと,場合によっては撤去すること,廃棄することだ.イラクが大量破壊兵器を持っているから空爆するというのは,わけがわからない.
「無条件,無制限に査察を受け入れろ」という要求が果たしてどれほど妥当なことなのかを,むしろアメリカはアメリカ以外の世に問い,従って,そうそう簡単に支持を取り付けられないでいる.アメリカ以外の核兵器保有国からみれば,イラクが仮に持っていようとも,それを暴力沙汰で見せろという権利がどのぐらいあるのかは,よく考えてみればわかる話.アメリカ以外の国では自国民の反発を招きかねない.勿論,黙っていた方が得,という国もあるだろうが.
また,その「無条件,無制限」の内容についても,査察チームの大半をアメリカ人とイギリス人にするなど,フセインからすれば「公正でない」と言われてもしようがないようなことをする.
しかも,イラクには国連決議に従えと言うが,2月の危機の時には,アメリカの武力行使には国連決議は必要ないとまで言っていた.こうなると,なんだかわからん.
この構図から,核兵器の保有が了承されている国とされていない国を作ることにそもそも無理があるのだということも引き出せる.NPT(核不拡散条約)体制の不都合がここにも表れる.なぜなら,保有国が非保有あるいは保有を意図する者に対して異議を申し立てられるのも,この体制があるからである.しかも,必ずしも体制維持が公平に遂行されているわけではない.もともと差別的である上に,差別的に遂行されている.
また,核兵器に関して,保有か非保有かに重点がかかりすぎるのも現実的ではないことがみえてくる.つまり,仮に今フセインが核及びその他大量破壊兵器の開発を断念したとしても,原料があって知識があればいつでもできる.これを回避するためには,まずは不使用条約を締結するべきだというのが最近の論調である.
イスラエル説は,イスラエルにしてみれば,身近な敵を叩いてくれるから,などといった理由ではなく,フセインを通して,アラブといえばわけがわからない,結局ならず者の集まりだ,と米国民に思いこませるのは非常な得策.なぜなら,それによってイスラエルが中東で唯一“非ならず者”の国になる.アメリカあるいは欧米にとってイスラエルは,アラブ世界唯一の信頼できる国であり続けなければならない.そうでなかったらこの国が今に至るまで膨大な無償援助をアメリカから受ける理由を失う.
軍需産業説は,味もフタもない話だが,軍需産業は定期的に戦争をしていないとまわらないという説.新兵器もテストしてみなけりゃ売れない.
石油産業説は,中東の油が世界に安定供給されないということは,他の油田にとって都合のいいことである.危機が募れば,多少の割高を覚悟しても他の油田を開発,採算に乗せられるというもの.だから中東は危機であることが望ましい人が世の中にはいるらしい.
しかしいずれの説も,ではアメリカが何をしたいのか,はよくわからない.わかったのは,諸々の出来事を通じて,ナントカといえばテロ,殺していいほど悪いヤツという世界標準が認められるのには,せいぜい7,8年もあれば十分だったのだということ.[981102]