国連総会における小渕総理大臣の一般演説

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(核不拡散、軍備管理・軍縮)
議長、
 先ず、「平和」の維持にあたって極めて重要な核不拡散、軍備管理・軍縮の問題につき述べたいと思います。本年5月、極
めて遺憾なことにインド及びパキスタンは核実験を行いましたが、これにより核不拡散体制は大きな挑戦に晒されました。
核兵器のない世界を目指すためには、これ以上、核の拡散を許さず、強固な核不拡散体制を確保することが必要不可欠であ
ります。確かに、現在の核不拡散体制は完全ではないかもしれませんが、国際社会の安定を確保していく上で、これに代わ
るものは現実にはありません。したがって、核不拡散体制の強化のための国際社会の努力を後退させることはいかなる国に
も許されないものであります。同時に、核不拡散体制を実効性あるものとして確保するためには、全ての国が核不拡散の努
力をなすと同時に、核兵器国が核軍縮を誠実に履行することが重要であります。こうした考え方に基づき、我が国は次の五
点を重視しております。
 第一に、核不拡散体制をより普遍的なものとしなければなりません。核兵器不拡散条約(NPT)は国際的核管理のために
代替の効かない体制です。未締結国に対しこれに無条件で速やかに加入するよう強く求めます。かかる観点から、本年8月に
ブラジルがNPTを締結したことを高く評価します。
 第二に、NPTを補完し、核不拡散を確実なものとするため、核兵器やミサイル関連の物質・技術等の輸出を厳格に管理す
る必要性を強調したいと思います。各国が、これらの物質、技術の移転の阻止に向けて真剣に取り組むことを求めます。
 第三に、これ以上の核実験を阻止しなければなりません。包括的核実験禁止条約(CTBT)に対する普遍的な支持がなけれ
ば核不拡散体制の実効性は保てません。この条約が早期に発効するよう未締結国に対し速やかにこれを締結するよう求めま
す。また、それまでの間、核実験の停止を確保しなければなりません。
 第四に、このような核不拡散の様々な努力を維持・強化するためには、核兵器国による核軍縮の一層の推進が重要であ
り、START2の早期発効及びSTART3の早期交渉開始を期待します。また、本年7月の英国による核戦力の顕著な削減の決定
やフランスによる地対地ミサイル解体の決定を歓迎し、全ての核兵器国がNPT第6条の義務を誠実に履行し、核軍縮を一層推
進させるよう要請します。
 第五に、核能力の凍結を図るため、カットオフ条約の交渉に各国が前向きに取り組み、交渉を早期に妥結することが重要
であります。
 今次総会において、わが国としては、以上の五項目を推進すべくイニシアティブをとって参りたいと思います。
 もとより、軍備管理・軍縮の推進は、核兵器にのみ限られるべきものではありません。その他の大量破壊兵器たる生物・
化学兵器の問題や、ミサイル等の運搬手段に関わる問題への取組みも極めて重要であります。北朝鮮による先般のミサイル
発射は、それが仮に衛星打ち上げを目的とするものであったとしても、わが国の安全保障及び北東アジアの平和と安定に直
接に関わる極めて重要な問題であり、また、大量破壊兵器運搬手段の拡散防止に対する挑戦であります。私は、改めて、9月
15日の国連安保理議長による声明を北朝鮮が国際社会の一致したメッセージとして真摯に受け止め、かかる行動を再び繰り
返すことのないよう求めます。
 さらに、紛争の発生や激化を阻止するためには、対人地雷や、従来必ずしも十分な取組みが行われてこなかった自動小銃
等小火器の問題にも取り組まなければなりません。わが国は、これらの問題について引き続き主導的な役割を果たしていく
考えであります。特に、対人地雷については、地雷除去、犠牲者支援を強化して、早期に「犠牲者ゼロ」の目標を実現でき
るよう国際的な協力の強化に取り組みます。対人地雷禁止条約が40ヶ国の締結により、明年3月1日に発効することとなった
ことは喜ばしい限りであります。わが国としても現在、一日も早い締結に向けて努力しているところであります。この条約
が対人地雷の全面的禁止に向けた普遍的な枠組みとなるよう、多くの諸国が早急にこれを締結することを求めます。
 また、紛争は、集団殺害等、人道上許すことのできない犯罪を招来しております。これを抑止するためには、これらを国
際犯罪として処罰する常設の国際法廷設立が必要であります。そうした国際刑事裁判所を設立するため7月にローマで採択さ
れた条約は、歴史的な意義を有するものでございます。我が国は、このような国際法廷が実効性のある成果を挙げるために
は、国際社会全体の祝福と協力を得ることが必要不可欠であると考え、設立会議で重要なイニシアティブをとりました。今
後、国際刑事裁判所がその方向で普遍的な枠組みに成長することを期待します。

議長、
 「平和」の実現に取り組むにあたって、近年、国連平和維持活動を含む国連の活動において文民の果たす役割の重要性が
高まっておりますが、残念なことに非戦闘員が紛争当事国による暴力の標的とされる事例が増えています。本年7月、「国連
タジキスタン監視団」に対する卑劣な犯罪行為により、わが国は、ポーランド、タジキスタン、ウルグアイと共に犠牲者を
出しました。国連や人道支援機関の要員の安全をどう確保するかにつき、当事国及び国連が真剣に検討を行うことが必要で
あります。その関連で、94年12月に採択された「国際連合要員及び関連要員の安全に関する条約」の早期発効に向け、未締
結国が一刻も早くこれを締結するよう改めて呼びかけたいと思います。また、わが国は、国連職員の安全対策のため、国連
に対し、100万ドルを目処に拠出することとしたいと思います。多くの国が、この面で国連の努力を支援するため、同様に
拠出することを期待します。



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